ページエクスペリエンス(CWV)アップデート対応ガイド
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はじめに
Googleが2021年に導入し、2022年以降も段階的に強化している「ページエクスペリエンス」アップデートは、ウェブサイトがユーザーにとってどれだけ快適に閲覧・操作できるかを重視する大きな流れを生み出しました。その核として位置づけられているのが、**Core Web Vitals(コア ウェブ バイタル)**と呼ばれる3つの指標です。本記事では、Core Web Vitals の概要とその重要性、具体的な改善策や効果、さらにECサイト運営者の視点での取り組み方を解説します。
ECサイトは商品ページ数や画像ファイルが膨大で、ページ自体が複雑になりやすく、それだけページ速度や安定性への対策が難しい面があります。ところが、ECサイトにおけるページ体験の向上は直帰率や離脱率の低減、CVR(コンバージョン率)の向上に大きく貢献し、結果的にはSEO順位にもポジティブな影響を与えます。
本記事では、Core Web Vitals の3指標(LCP, FID, CLS)を核としたページエクスペリエンス改善のポイントを、ECサイトならではの観点を含めて深く考察していきます。
Core Web Vitals とは
Core Web Vitals(以下、CWV)は、Googleが定義したユーザー体験に関わる主要な指標群です。2021年6月よりモバイル検索、2022年2月よりデスクトップ検索のランキング要因に取り入れられました。主に以下の3つの指標から構成されています。
- LCP (Largest Contentful Paint)
- ページ読み込み開始から、画面内で最大の画像やテキストブロックが描画されるまでの時間を計測
- 目安: 2.5秒未満が「良好」、2.5秒~4.0秒は「要改善」、4.0秒以上は「不十分」
- 表示速度に相当する体験指標
- FID (First Input Delay)
- ユーザーが初めてクリックやタップなど操作を行った際、ブラウザがそれに反応し始めるまでの遅延時間
- 目安: 100ms未満が「良好」、100ms~300msは「要改善」、300ms以上は「不十分」
- インタラクティブ性の指標
- CLS (Cumulative Layout Shift)
- ページロード時や操作中に起きる、要素の予期せぬ位置ズレ(レイアウトシフト)の累積値
- 目安: 0.1未満が「良好」、0.1~0.25は「要改善」、0.25以上は「不十分」
- 視覚的な安定性の指標
Googleは「ページ体験(Page Experience)は、コンテンツそのものの有用性と同等か、それ以上にユーザーの離脱やロイヤルティに影響し得る」と公式に示唆しています。特にECサイトは、回遊性や購入体験のスムーズさが売上やリピート率に直結するため、Core Web Vitalsが示すページ速度や操作レスポンス、レイアウト安定性は無視できません。
また、Google検索においてCWVはあくまでもランキング要因の一部であり、サイトのコンテンツ品質や関連性のほうが重要度は高いとも言われます。しかし、ユーザーがストレスなくページを閲覧し、商品を探し、スムーズにカートへ進んで購入に至る流れを阻害しないためにも、CWVの改善はECサイト運営者にとって必須といえるでしょう。
LCP(最大コンテンツ描画時間)の重要性と改善策
LCPが悪化するとなぜ問題か
LCPは「ユーザーがページを開いて、主要なコンテンツを視認できる状態になるまでの時間」を測定しています。ECサイトの場合、トップページや商品一覧ページなどで大きなバナーや商品のメイン画像がLCP要素になりがちです。もしLCPが遅いとユーザーは「画像が表示されない」「メインの内容がなかなか見えない」と感じてしまい、結果的にページ離脱が増える可能性が高くなります。
さらに、表示速度の遅さによってストレスを感じたユーザーは、一度きりの離脱だけでなく「このサイトは使いにくい」という印象を抱き、再訪率も下がりがちです。特にモバイル環境で通信速度が不安定な場合、数秒の遅れがユーザーのイライラを増幅する要因にもなります。ECサイトでは、こうした“表示待ち時間”が実売上にダイレクトに響くため、LCPは最優先で取り組みたい指標の一つです。
画像の遅延読み込み(Lazy Load)
ECサイトのページで読み込む画像は、多い場合には数十枚から数百枚に及ぶケースもあります。すべての画像をページロード時に一斉ダウンロードしていては、不要なリソース転送が発生してLCPも悪化しがちです。
そこで、Lazy Load(遅延読み込み)を導入し、今すぐ画面に表示される必要がない画像は後から読み込むように制御します。特に商品一覧ページなど「下へスクロールしないと見えない画像」は、ユーザーが実際に表示範囲までスクロールしたタイミングでリソースをロードすればよいのです。
ただし注意点として、ファーストビューに位置する画像には遅延読み込みを適用しないことが大切です。トップページのメインビジュアルや商品詳細ページで一番上にある商品画像は、画面を開いた瞬間に表示されないとLCPがかえって遅くなります。
HTMLタグで loading="lazy"
を利用すれば、主要ブラウザはネイティブサポートしているため導入も容易です。WordPressなどのCMSを利用していれば、プラグインの設定などでまとめて対応できる場合もあります。
画像フォーマットの最適化(WebP・AVIF など)
従来のJPEGやPNGに比べ、WebP や AVIF などの次世代フォーマットは同等かそれ以上の画質でファイル容量を大幅に削減できます。
WebPはJPEGよりも平均25〜30%程度サイズが小さくなるといわれ、AVIFはさらに圧縮率が高いのが特徴です。主要ブラウザの対応状況は近年急速に進み、Safari(iOS含む)やFirefox、Edgeでも利用できるケースが増えています。
ECサイトにおいて商品画像ファイルの容量を削減できると、それだけLCPを短縮できるだけでなく、ページ全体の読み込み時間も改善し、ユーザーが快適に閲覧できる可能性が高まります。画像数が多いサイトほど、次世代フォーマットへの変換による効果は絶大です。ただし、商品画像は画質も重要なので、あまりに高圧縮で品質が損なわれるのは逆効果です。最適なバランスをテストしながら導入していくのが望ましいでしょう。
サーバー応答速度の短縮とキャッシュの活用
サーバーがページのHTMLを生成して返すまでに時間がかかっている場合、画面のレンダリング自体が遅れLCPまでの時間が伸びてしまいます。ECサイトではDBクエリが多くなることや、在庫確認の処理などで応答時間が増加しがちです。
サーバーサイドのチューニング(DBインデックス設定、クエリ最適化、キャッシュ導入など)を実施し、TTFB(Time to First Byte) をできるだけ短縮しましょう。HTMLを動的に組み立てる箇所が多いほどTTFBに影響しますが、頻繁に更新されないページ(カテゴリの説明文やブランドストーリーなど)は、静的ファイルとしてキャッシュする方法も検討できます。
また、**CDN(Content Delivery Network)**を活用して、画像やCSS/JSなどの静的ファイルを地理的に分散させて配信することも大きな効果があります。国内向けであっても全国各地にサーバーがあるCDNを利用すれば、ユーザーが最寄りのエッジサーバーから静的リソースを受け取るため転送時間が短縮されます。
ECサイトならではの工夫としては、CDNキャッシュを活用して商品のサムネイル画像などをスピーディに配信しつつ、在庫状況や価格などのリアルタイムデータはAjax等で必要なときだけ取得するといったハイブリッド設計も考えられます。
クリティカルレンダリングパスの最適化
LCPに大きな影響を与えるのが、**「ページが描画開始するまでにどれだけブロッキング要素が存在するか」**という点です。たとえば大量のCSSファイルやJavaScriptファイルがページ先頭で同期的に読み込まれると、ブラウザはHTMLの解析を一時停止してリソースを取得しようとします。
CSSの最小限必要な部分だけをインライン化して、それ以外は遅延読み込みにする、JavaScriptは<script>
タグに defer
や async
を付けてHTMLパースをブロックしないようにするなど、細かいチューニングによってファーストビューの表示を早めることが可能です。特に商品一覧ページなど、ユーザーが最初に目にする部分の描画を最優先に考えて設計することで、LCPの改善に直結します。
FID(初回入力遅延)の重要性と改善策
どのような場面でFIDが問題となるか
FID(First Input Delay)は、ユーザーが最初に行った操作(クリック、タップ、キー入力など)に対し、ページが応答を開始するまでの遅延時間を測る指標です。これが長いと「ボタンを押しても反応しない」といったストレスをユーザーに与えることになります。特にECサイトでは、商品ページで「カートに入れる」ボタンがなかなか反応しなかったり、ページ上部のメニューを押したのに処理が遅れて別のボタンが誤クリックされるなどの不具合が生じると、購買意欲や信用度に悪影響を及ぼすおそれがあります。
JavaScriptの非同期化・最適化
FIDを改善するうえで最も重要なのは、JavaScriptのロードと実行をできるだけ最適化することです。ページロード直後に膨大なJavaScriptコードが一気に実行されると、メインスレッドがブロックされてしまい、ユーザーの入力を処理する余力がなくなるからです。
- スクリプトの削減:
まず、現在読み込んでいるJSファイルが本当に必要か、重複していないかを見直します。使っていないプラグインのスクリプトが残っていれば削除し、古いブラウザ向けのポリフィルを無条件に読み込んでいないかも確認しましょう。 - 非同期読み込み(async / defer):
依存関係のないサードパーティスクリプトはasync
を付けて読み込み、依存関係のある自前スクリプトはdefer
を使ってHTMLパース完了後に実行させるのが基本です。とにかくページの主要描画や初期インタラクションをブロックしない形にすることが、FID短縮につながります。 - サードパーティタグの見直し:
広告タグやアクセス解析タグ、チャットボットウィジェットなど、外部のJSコードを多数読み込むサイトは多いですが、すべてが必要不可欠とは限りません。本当に必要なタグだけを厳選することで、読み込みや実行の負担を減らすことができます。
処理を分割する・Web Worker の活用
もしECサイトのフロントエンドで複雑な計算処理やリッチなUI操作を行っている場合、処理をひとつの大きな関数にまとめるのではなく細切れに分割してメインスレッドのブロック時間を短くする工夫も有効です。
また、Web Workerを使って重い処理をバックグラウンドスレッドに任せれば、メインスレッドはユーザー操作の受付を中断せずに済みます。商品画像の動的加工や多量の検索フィルタ処理などがある場合、Workerを活用することでFIDの改善だけでなく全体的な操作感も大きく向上する可能性があります。
Webフォントの最適化
日本語Webフォントはファイルサイズが非常に大きく、ロード中にテキストが非表示になったり、表示後に再描画されるなどの問題が起きやすいです。そうした状態も、操作レスポンスに対する視覚的な遅延感を与えがちです。
以下のような方法でWebフォントの読み込みを最適化し、ユーザーが「クリックしたのにテキストが見えない」「反応がわからない」と感じないように注意するとよいでしょう。
font-display: swap
やfont-display: optional
を指定して、フォントが届くまではシステムフォントで瞬時に表示させる- 必要な文字セットだけをサブセット化してダウンロードサイズを削減する
- 重要な見出し用フォントだけ先読み(preload)し、それ以外は後から読み込む
ECサイトでブランドイメージを伝えるためにカスタムフォントを使いたいケースは多いですが、表示速度とのトレードオフを考慮し、デザイン性とパフォーマンスを両立する最適なラインを模索しましょう。
CLS(累積レイアウトシフト)の重要性と改善策
なぜCLSがECサイトで問題となるのか
CLS(Cumulative Layout Shift)は、ページの読み込み中や操作中に要素が予期せず動いてしまう現象を数値化する指標です。ECサイトでは、後から画像や広告が読み込まれてテキストを押し下げたり、ウィジェットが急に展開されてボタンの位置がずれたりすると、ユーザーが誤って別のリンクをクリックしてしまうなど大きなストレスを与えます。
特に商品一覧ページで画像サイズが正しく指定されていない場合、ロード完了後に高さが変わって文章や他の商品の表示位置が大きく動くケースが多発します。「カートに入れる」ボタンを押そうとした瞬間に別のボタンがズレて押し違えるなど、UX(ユーザーエクスペリエンス)面で致命的な不快感を招きかねません。これは売上にも直結するため、CLSもまたECサイトでの重要度が高い指標です。
画像や動画のサイズ指定
最も基本的な対策は、画像や動画タグに適切なサイズ情報(width / height または aspect-ratio)を設定することです。
ブラウザは画像が読み込まれる前でも、HTMLで指定された幅・高さをもとにレイアウトを確保するため、後から画像が表示された際に他の要素を押しのけることが起こりにくくなります。レスポンシブWebデザインを採用している場合でも、正しいアスペクト比だけ指定しておけば、表示領域を先取りする形でシフトを防止できるケースが多いです。
動的コンテンツの挿入場所を工夫する
ECサイトでは、「在庫数が変動してテキストが変わる」「ユーザーがスクロールすると新しい商品一覧が自動読み込みされる」「ポップアップバナーが出現する」などの動的要素が多数存在します。
レイアウトシフトを抑えるためには、以下のような工夫が必要です。
- 後から挿入するUI要素の表示領域をあらかじめ確保しておく
- 通知バーやキャンペーン告知をページ上部に突然挿入しない(メインコンテンツを押し下げる原因になる)
- 広告バナーやウィジェットを挿入する領域は固定のコンテナを用意し、高さを指定する
- 「もっと見る」や「追加読み込み」を実行する場合は、アニメーションで徐々に展開するなど、ユーザーが混乱しない演出にする
「使いやすいインターフェイスにするために動的な仕組みを取り入れたい」という要望と、「レイアウトを極力安定させたい」という要望は相反しがちですが、計画的にレイアウト枠を用意し、アニメーションを適切に活用すれば大幅にCLSを抑えられます。
広告やサードパーティウィジェットの扱い
広告は自社では制御が難しい部分もあり、バナーサイズが事前に決まっていても内容によって高さが変わる場合があります。
こうしたサードパーティコンテンツを掲載する際は、事前に大きめのコンテナ領域を確保する、あるいはレスポンシブ対応の広告タグでも最大サイズを指定しておくなど、最悪の場合でも他の要素が押し下げられないように設計します。ECサイトの場合、商品画像の真上や真下に広告が挿入される配置をするとCLSが高まるリスクが大きいので、配置場所や広告サイズの統一を意識するとよいでしょう。
ページエクスペリエンス改善がもたらす効果
離脱率やCVRへの影響
Core Web Vitalsを含むページ表示速度や操作レスポンスは、ECサイトにおいては直接的に売上に結びつく重要要素です。
Googleの調査によると、モバイルページの読み込みが3秒以上かかると、約53%ものユーザーが離脱してしまうと報告されています。また、ページ速度が1秒から10秒に増加すると、直帰率が123%も上昇するとのデータもあり、ユーザーは「表示が遅い」というだけで競合サイトへ流れていく可能性が大きいことがわかります。
ECサイトでは、ページが表示されるまで待ちきれないユーザーが増えれば増えるほど、機会損失が膨れ上がります。さらにいったん悪印象を持たれると「もうこのサイトは遅いからいいや」とリピートを敬遠される恐れもあるでしょう。
SEOへのプラス効果
ページエクスペリエンスの良し悪し(とりわけCore Web Vitals)は、2021年からランキングシグナルの一部になっています。しかし、Googleは「ページのコンテンツ品質のほうが依然として重要度は高い」と公式にアナウンスしており、CWVの改善だけで急に上位表示されるようになるわけではないのも事実です。
一方で、関連性が拮抗しているサイト同士であれば、ページエクスペリエンスの優劣がタイブレーク要因になる可能性があります。また、速度改善によりユーザーエンゲージメントが向上すれば、結果的に直帰率低下や滞在時間増加など、さまざまなポジティブ指標が強化され、長期的には検索順位や自然流入数の増加に寄与すると考えられます。
さらに、検索結果での微妙な順位変動以上に、「サイトが快適で使いやすい」という評判が広がり、ロイヤルカスタマーの育成や口コミ評価の向上につながることがECサイト運営にとって最も大きなメリットでしょう。
具体的な成功事例
国内外には、Core Web Vitals を改善することで売上やコンバージョン率を大きく伸ばした事例が数多く報告されています。例えばイギリスの通信企業Vodafoneでは、ページのLCPを31%短縮したところ売上が8%増加し、コンバージョン率も15%上昇したと報じられています。
日本国内でも、大手求人サイトや比較サイトがモバイルページ速度を改善したことで応募率や問い合わせ率が二桁台で上昇するなどの事例が報告されています。こうした事例から、ページの読み込みが1秒縮まること、あるいはCLSやFIDを良好に保つことが、ユーザーの離脱を防ぎ、最終的なCVRを高める要因となることが裏付けられています。
また、ECサイトではユーザーがじっくり商品を比較検討する場面が多いため、快適にページ間を回遊できる環境が整っているサイトほど「他の商品も見てみよう」と滞在時間が伸び、関連商品の購入やアドオン販売の機会を逃さずに済むという効果が期待できます。
測定ツール・運用における注意点
PageSpeed Insights と Search Console
Googleが無料提供するツールのうち、最初に活用しやすいのがPageSpeed Insightsです。URLを入力するだけで、実際のユーザーが計測した「フィールドデータ(CrUXデータ)」と、エミュレート環境で行われる「ラボデータ(Lighthouseによる計測)」の両方をチェックできます。
さらに、Search Consoleの「ウェブに関する主な指標」レポートを参照すれば、サイト全体でどのページがCore Web Vitals指標を満たしていないか、まとめて把握可能です。たとえば「モバイル版CLSが不良のURLが○件ある」など一覧で示され、改善の進捗を追いやすいメリットがあります。
Lighthouse の活用
Chromeブラウザの開発者ツールに組み込まれているLighthouseを使えば、より詳細なレポートが得られます。特にローカル開発環境でまだ公開していないサイトをテストしたり、新しい改善策を導入する前後のパフォーマンス差を比較したりする際に役立ちます。
Lighthouseはコマンドラインでも実行できるため、CI(継続的インテグレーション)環境に組み込み、プルリクエストのたびにパフォーマンススコアを自動チェックする運用も可能です。新機能を追加して大幅にスコアが下がるような変化があったら、すぐに検知して対処できるのは大きな利点でしょう。
WebPageTest の詳細分析
さらに深い診断を行いたい場合は、WebPageTest(webpagetest.org)を利用すると、回線速度や地理的ロケーション、デバイス環境などを細かく指定して多角的にテストできます。表示プロセスのウォーターフォールチャートや、LCP要素がいつ描画されたか、CLSがいつ発生したかなどの可視化が非常に詳しく表示されるため、ボトルネックを特定しやすくなるでしょう。
WebPageTestは高機能である反面、設定項目が多いため初心者にはややハードルが高い面がありますが、大規模なECサイトではパフォーマンスチューニングの精度を上げるためにぜひ活用を検討してみてください。
実際のユーザー環境を意識する
ラボデータで快適に見えても、実際のユーザーが使う低速回線や古いスマホ環境では速度が出ない可能性があります。あくまでも実フィールドデータを指標に改善を進めることが重要です。
たとえばSearch Consoleで確認できるCore Web Vitalsの指標が十分に良好でなかったり、モバイルユーザーから「ページが重い」というフィードバックがある場合は、モバイル端末+3G/4G回線をシミュレートしたテストを行い、どこがボトルネックになっているかを調査する必要があります。
ECサイトではユーザー層が幅広いケースもあるため、最新のハイエンド端末だけでなく、比較的古い端末や通信環境でも最低限ストレスなく使える設計を意識しましょう。
ECサイト運営におけるCWV対策の進め方
1. 現状把握と優先順位付け
まずは自分たちのサイトの各ページで、どの指標がどの程度改善を要するかをチェックします。Search ConsoleやPageSpeed Insightsでサイト全体の指標を概観し、特に「不良」または「要改善」のページが多い指標を優先的に改善しましょう。
ECサイトではトップページや商品一覧ページ、商品詳細ページ、カートページなど、ユーザー行動の要所を重点的に分析するのが基本です。「カートに入れる」ボタン周辺のFIDが悪化していればコンバージョン率に直結しかねませんし、画像の多い商品一覧ページのLCPやCLSが悪いと離脱を招きやすいです。どのページがビジネス成果に直結するかを考え、優先度を決めていきます。
2. 施策ごとの効果を検証
一度にあれもこれも実装すると、どの施策がどれだけ効果を出したのかがわかりにくくなります。たとえば「まず画像の遅延読み込みを導入してみる」「その後、不要スクリプトの削減を行う」「次に広告タグのレイアウトを修正する」というように、段階的に進めながら毎回PageSpeed InsightsやLighthouseなどで数値を確認するのがおすすめです。
また、機能追加やデザインリニューアルを行う際にも、CWVが大幅に悪化しないかどうかをテストしながら進めましょう。新機能によるJavaScript増加が大きい場合は、遅延読み込みやコード分割で対応できないか検討します。
3. デザイン・マーケティングとの連携
ECサイトでは、見映えの良さやキャンペーン訴求の強さなどを重視して、トップページに大きなビジュアルやポップアップを表示したいという要望がしばしばあります。しかし、それが過度にパフォーマンスを損なうと、最終的な売上やユーザー満足度が下がってしまう可能性もあります。
デザイナーやマーケティング担当者と協力し、ページエクスペリエンスの最適化と販促施策のバランスを取ることが重要です。どうしても大きなビジュアルを使いたい場合は、次世代フォーマットで圧縮率を高めたり、ファーストビューより下に配置するなどの工夫を加えましょう。ポップアップやインタースティシャルに関しても、表示タイミングや遅延ロードを検討し、CLSやFIDが悪化しないように実装するのがベストです。
4. 継続的な監視とアップデート
Core Web Vitalsへの対応は一度やれば終わりではありません。新しい商品ページや特集ページ、プロモーション施策を追加するたびに、ページ構造やスクリプト構成が変化し、CWVが悪化するケースも十分考えられます。
そこで、定期的なモニタリングを行い、Search Consoleのレポートで不良ページが増えていないか、PageSpeed Insightsの平均スコアが下がっていないかを確認します。大きな悪化があれば原因を特定し、早期に対処する仕組みを整えることが、長期的なサイト運営において非常に重要です。
あわせて、Googleのアップデート情報や、Webパフォーマンスに関する新しい知見をキャッチアップして改善を繰り返す姿勢が求められます。例えば、今後FIDに代わってINP(Interaction to Next Paint) という指標が正式に導入される見込みですが、そのときにも基本的な考え方は「不要なブロッキング処理を減らしてユーザー操作に素早く応答する」という点で変わりません。最新仕様やガイドラインを把握しつつ、サイトの運営体制全体でページ体験を向上させる取り組みを続けましょう。
まとめ
ECサイトにおいて、Core Web Vitalsを含むページエクスペリエンス(CWV)はユーザー行動に大きな影響を与える重要な要素です。検索エンジンのランキング要因として取り入れられていることが注目されがちですが、それ以上にユーザーが快適にショッピングできるかどうかがビジネス成果を左右するポイントとなります。
- LCP(最大コンテンツ描画時間)を短縮するには、画像の遅延読み込みや次世代フォーマット(WebP・AVIF)への変換、サーバー応答速度の改善やCDN活用、クリティカルレンダリングパスの最適化が鍵となります。
- FID(初回入力遅延)を改善するには、大量のJavaScriptやサードパーティスクリプトの最適化・削減が不可欠で、スクリプトを非同期読み込みする工夫や、Web Worker・コード分割などを駆使してメインスレッドの負荷を減らす取り組みが重要です。
- CLS(累積レイアウトシフト)を抑えるには、画像や動画タグのサイズ指定、動的コンテンツや広告の事前枠設定など、レイアウト変化を事前に想定したUI設計が必要となります。
こうした対策を通じて、サイト全体の表示速度や操作レスポンス、視覚的安定性を向上させることで、ユーザー満足度を高め、直帰率や離脱率を低減し、CVRの向上や売上増につなげることができます。さらに、ページエクスペリエンスの改善により検索順位にもプラスの影響が期待できる場合があるため、競合が多いEC業界においては持続的な競争力を確保するうえでも欠かせません。
最初は「どこから手を付ければいいかわからない」という状況もあるかもしれませんが、まずはSearch ConsoleとPageSpeed Insightsを使って現状を把握し、ボトルネックになっている部分を優先的に取り組んでみましょう。画像の最適化や不要スクリプトの削除など、低コストで大きな効果を得られる施策から着手するのがおすすめです。
ECサイト運営は、商品登録や在庫管理、マーケティング施策など多岐にわたる業務を日々行わなければならず、ページエクスペリエンスの改善に割けるリソースが限られることも多いでしょう。しかし、Core Web Vitals の改善は長期的な売上アップやブランドロイヤルティの向上にもつながる「投資」です。開発者だけでなく運営担当者、デザイナー、マーケターが一丸となって、ユーザー体験を最優先するサイト運営を心がけてみてください。
ECサイトは商品探しから購入までのフローが長いだけに、ページ速度や操作性の悪化によるユーザー離脱が大きな損失を生み出す可能性があります。一方で、コツコツとした高速化やレイアウト最適化の取り組みが成果を出しやすい領域でもあります。今日のページ速度改善が、明日のコンバージョン率とユーザー満足度の向上につながることを念頭に、ぜひページエクスペリエンス向上に取り組んでいただければと思います。